東京高等裁判所 昭和30年(て)8号 決定
本件申立理由の要旨は、申立人は窃盗被告事件にて拘束中の者であるが、昭和二十九年十二月二十五日東京高等裁判所に於て控訴棄却の判決の言渡を受け、昭和三十年一月八日の経過と共に上訴期間を徒過するに至つた。然し申立人は同被告事件につき昭和二十九年十二月十四日の同裁判所第一回公判期日に出頭し、判決言渡期日は同年同月二十五日と告知せられて退廷した。ところがその後該期日に申立人の出頭なく且つ裁判所及び弁護人よりも何等の通知もなかつたので、判決言渡期日が延期されたものと信じていたが、判決の言渡が余り長引くので昭和三十年一月二十日同裁判所に問い合せたところ、同年同月二十四日同裁判所より申立人に対しては昭和二十九年十二月二十五日に控訴棄却の判決があつた旨の回答があり、始めて自己に対する判決のあつたことを知つた次第で、申立人が法定の上訴期間内に上訴することができなかつたのは、それ迄自己に対する判決があつたことを知らなかつたためであるから、右の事情を斟酌せられ、何卒上訴権回復の請求を許容せられたく本申立に及ぶと云うにある。
よつて申立人に対する当裁判所昭和二十九年(う)第二、七〇六号窃盗事件記録を調査するに、申立人は当裁判所に於て昭和二十九年十二月十四日午前十時同被告事件の控訴審第一回公判期日に弁護人と共に出頭し同日弁論は終結せられ、判決宣告期日は同年同日二十五日午前十時と指定せられ、該判決宣告期日に申立人及び弁護人不出頭のまま控訴棄却の判決が言渡されたことが明らかであり、且つその後申立人その他何人からも上訴の申立がなされた形跡が存在しないから、本件上訴期間は該判決宣告期日の翌日より起算し、法定の二週間を経過した昭和三十年一月八日の徒過と共に満了したものと云わなければならない。而して被告人たる者は自己に対する判決宣告期日の告知を受けたる上は格別の注意を払い常に判決の内容を了知することに努力すると共に、上訴期間を徒過すること等のないよう万全の手段を講ずべきものと云わなければならないが、東京拘置所長川上悼作名義の被告人の移監についての回答と題する書面によれば、申立人は昭和二十九年十二月十四日午前十時の当審第一回公判期日の召喚状を当時別件にて拘束中の長野刑務所に於て受けた後、出廷の便宜上同年同月十日東京拘置所に移監されたため、当審第二回公判期日の同年同月二十五日午前十時の判決宣告期日には慣例によれば当庁より在監人呼出簿による呼出を受くべきところ、右拘束が別件であつたため当庁は右移監に付何等の通知をも受けて居らなかつたので、当審第一回公判期日に出廷した申立人に対しては右判決宣告期日を告知したに止まり、更に右在監人呼出の手続を採るに由なく、当時申立人は、担当看守に対し出廷したき旨の意思を表示したにも拘らず出廷させて貰えなかつたものであることの事情が認められるのみならず、申立人が本件申立の理由として引用する葉書(本件上訴権回復請求申立事件記録編綴)によれば、申立人がその後本件上訴期間を徒労したのも、申立人主張の如く自己の判決宣告期日が延期せられたと誤聞したためであると看取できないこともなく、而かも申立人は別件のためではあるが、拘束中の身であることを考慮すると、右は申立人の責に帰することができない事由であると云えないこともないから、本件上訴権回復請求の申立はその理由があるものとして、刑事訴訟法第三百六十二条に則りこれを許容し主文の通り決定する。